新しい防災への挑戦 防災支援スマホアプリ「TASKis®」
企業の負担を軽減する、
能美防災初の防災支援スマホアプリの開発
近年、企業において火災や地震などの災害を想定したBCP(事業継続計画)の策定が進む中、その維持管理と教育に費やす企業の負担が増加しています。そこで、私たちの防災に関するノウハウと成長著しいICT(情報通信技術)を組み合わせた、各企業の防災センター要員や自衛消防隊員を支援するシステムを開発しました。それが当社初のクラウドサーバーとスマートフォンアプリを使った、クラウド型防災システム「TASKis®(タスキス)」です。
従来の防災訓練
1.マニュアル周知
2.訓練は1年に1回のため
忘れてしまう
3.引き継ぎはマニュアルを
渡されるだけ…
4.トラブル発生時も
自分が何をすればいいか、
わからない…
TASKis®導入後
1.マニュアル周知
2.訓練時もスマホを見て
自分の役割を確認
3.引き継ぎも
アプリ内で簡単操作
4.トラブル発生も
スマホを確認すればOK
スマートフォンでタスクをいつでも確認可能に
ユーザー自身の非常時に対する意識や備えを促す
TASKis®を使えば、各社が策定した緊急時対応マニュアルで規定されている行動指示情報(タスク)をスマートフォンアプリから、いつでも自主的に確認することができます。これまで当社が行ってきた設備機器による防災に加えて、ユーザー自身の非常時に対する意識や備えを促すことで、安全をより高められると期待しています。
また、ビジネスモデルが従来の当社製品とは異なり、TASKis®はお客様へ継続的に価値を提供することで対価をいただくサブスクリプションモデルを採用しています。
自動火災報知設備は消防法による検定・認定の合格が必要なため、規格の中で製品を開発する必要があります。しかし、TASKis®は消防法外のサービスのため、お客様のニーズを直接反映することが可能です。継続して機能拡張を行うことで、時代に合わせて成長するシステムといえるでしょう。
開発エピソード EPISODE
TASKis®とは
TASKis®は「task information system」からの造語で、非常時の行動に必要なタスク情報を必要な人へ通知し、組織を襷(タスキ)で繋ぎ、密な連携と迅速な行動を支援することを目的としています。
BCPは事故や災害などが発生した際、事業を継続・早期復旧するために様々な観点から対策を講じることです。その一つとして、自衛消防隊などの体制を確立し、教育・訓練を施す必要があります。
お客様が抱える課題は様々ありますが、特に自衛消防隊については、日頃からの準備がなかなか出来ていない方が多いようです。総務部などの本部隊を担う方たちも、その周知徹底に苦労されているという話をよく聞きます。
自衛消防隊員はその会社の社員、つまり普段はそれぞれの仕事をしている方々ですので、年に1度の消防避難訓練だけでは非常時における自分の役割・行動を忘れてしまっているケースも多く見られます。引き継ぎに関しても、人事異動などのきっかけで自衛消防隊に任命された際、書類ファイルやマニュアルを渡されるだけのことが多く、実際のトラブル発生時に慌ててしまう可能性があります。
TASKis®はそうした方々にも、アプリで簡単に自分の任務や役割を把握し、日頃の準備を行うとともに緊急時に適正な行動を取れるよう支援するシステムになっています。
本社ビルでの消防避難訓練で実証実験を実施。
専門部署とプロジェクトの立ち上げを実現。
本システムの開発は、ICTを活用し防災センターを支援するシステムの構築を目的として、2012年から検討を重ねてきました。当初はワーキンググループとしてシステム技術部門、研究開発部門が協力し、試作や検証を実施しました。また、機能の有効性確認のため、本社ビルにおける消防避難訓練での実証実験を5回実施し、実際の自衛消防隊員へのヒアリングを行うなど、多くの方の協力を得ながら進めていきました。
2017年には、本格的にシステム開発を進める社内体制を構築するために、必要なメンバーを選定し、専門の部署と社内プロジェクトを立ち上げました。当社としても、一つのシステムを開発するために専門の部署および社内プロジェクトを立ち上げることは稀な事例で、メンバーの上司への説明や社内決裁など非常に苦労しましたが、ご理解をいただいて無事に部署の設立とプロジェクトの立ち上げを行うことができました。
部署設立と並行して、システム開発チームの協力会社の選定を行いましたが、SIer(システムインテグレーター)、ソフトウェア開発、デザイナー、プラットフォームと選定する項目は多岐にわたり、システムの将来像を考えながら最適なチームを作り上げることに苦労しました。
このシステムは、能美防災として初めてスマートフォンアプリを使用したサービスですので、システム構成やアプリの仕様など、未知な事柄も多くありました。例えば、一般的なユーザーが説明書を見ないでどういった操作を行うのかなど、そういったことも社内外のチームメンバーといろいろ調査しながら、直感的に使用できる機能やアプリデザインを採用していきました。
初の実証実験でトラブルが発生。
期待されていた中でのこともあり、顔面蒼白に。
2014年に本社ビルの消防避難訓練と併せて実施した、試作システムの実証実験で起きたトラブルは今でも覚えています。当時は専門部署や社内プロジェクトの立ち上げ前でしたから、実験用のスマートフォン端末が20台しか用意できず、他部署からタブレットを借りて計40台での実験でした。事前に会議室にこもって動作検証を続け、確実に動作することを確認してから当日を迎えたのですが、火災警報が鳴ると同時に試作システム用のサーバーがダウンしてしまいました。社員数百名が参加する訓練、かつ新システムとして注目されていた中での出来事だったので、顔面蒼白でした。
ただしその後、上司に状況報告を行ったとき「最初から上手くいくとは思っていなかった。こうした失敗がノウハウとなる。一つずつ原因を調査し、改善して良いシステムにしていくように」との言葉をいただいたので、少し救われました。
また、試練はコスト面でもありました。TASKis®のようなシステムを建物ごとに構築することは、クラウドサーバーを使用することで比較的容易に行えます。しかし、1物件につき1つのプラットフォームでは非常に高価になる。そこで、一つのプラットフォームで管理し、建物ごとに異なる制御を可能にすることで、導入コストを抑えることに成功しました。開発段階から様々な建物での将来的な使用方法を想定するのは難しく、非常に苦労しましたが、メンバーの協力により、多くのお客様のご意見を伺ったうえで、システム開発を行えました。
いち早くの通知を当たり前にする。
ウェアラブル端末との提携でさらなる機能拡張へ。
今回のシステムで使用しているメインのデバイスはスマートフォンです。今や私たちが当たり前のように使っているものも、世の中に登場してからまだ十数年しか経っていません。ICTの進歩により高機能なデバイスが普及すると、お客様のニーズも大きく変化します。今では、地震が発生した際、スマートフォンでの通知が来ることが一般的になったように、万が一火災が発生した際はアプリが作動し、皆様にいち早くお知らせすることを当たり前にしていきたいと考えています。
また、TASKis®は現段階でできること、必要な機能を実装してリリースしましたが、デバイスの進歩によって様々な機能拡張があると考えています。その一例としては、ウェアラブル端末との連携です。ウェアラブルウォッチをはじめ、グラスやカメラ、イヤホンなど様々なデバイスが出てきていることを踏まえると、イヤホンから音声で指示が出たり、メガネに内蔵したディスプレイに地図が表示されたり、メガネに実装したカメラの映像を防災センターと共有したりするなど、機能拡張の可能性は無限にあると思っています。
※所属およびインタビュー内容は、取材当時のものです。